脳情報が「究極のプライバシー」だという表現について

「究極のプライバシー」というと遺伝情報かと思いきや、脳に関する情報でも「究極のプライバシー」と表現されることがあるという。
(染谷昌義・小口峰樹(2008.08)「「究極のプライバシー」が脅かされる!?―マインド・リーディング技術とプライバシー問題」信原幸弘・原朔編『脳神経倫理学の展望』:
101-126.)
プライバシーではあるけど、さすがに究極ではないだろう。

なんだか火消し的な作業だけど、だれがこの表現を使っているのか、少し調べてみた。

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「究極のプライバシー」という表現は、倫理的側面に配慮する人々によって、倫理の重要性を訴えるために使われていた。
染谷・小口2008は対応策までふれているが、染谷2007は脳情報が究極のプライバシーへと仕立てあげられていく仕組みの把握を提案している。
(染谷昌義(2007.03)「「究極のプライバシー」が脅かされる!?―ニューロイメージング技術とプライバシー問題」『UTCP研究論集』8: 17-35.)
安易に「究極のプライバシー」と表現すると、逆に必要以上の不安を感じる人もいると思う。
こういうレトリックにあおられないというリテラシーが必要なのだ、という人もいそうだけど、あおりは最低限にしておいてほしい。
脳神経例外主義 neuro-exceptionalism もいきすぎはよくない。


以下、資料。

1.JST脳神経倫理研究グループ

染谷(2007)で例示されているもの。(研究会でも教えていただいた。)
JST「脳神経倫理研究グループ」の課題紹介文のなかにみられたという。(染谷2007, 18)
(正式には、科学技術振興機構社会技術研究開発センター・研究開発領域「脳科学と社会」研究サブセンター「脳神経倫理研究グループ」。)
すでにウェブからは削除されているようだが、脳機能の計測可能性を「究極のプライバシーである個人の考えの一部を客観的に知り得る可能性」と等置して、脳研究の進展に伴う倫理的課題を調査研究する必要性を強調していた。
ちなみにURLは、http://www.ristex.jp/activity/brain.html(すでに削除されている)。


2.マスメディア

2.1.『日経ビジネス』2005年1月
なんと手元にあった資料にも書かれてあった。いまから3年半前もに、Xさんにもらった以下の記事。
吉川和輝(2005.01)「脳のタブーに教育で挑む」(ひと列伝・小泉英明氏)『日経ビジネス』2005年1月10日号: 82-84.
その最後に、小見出しを「脳は究極のプライバシー」として、「研究には負の側面もある。」という一文からはじまる段落の最後。
「心の座である脳は、恐らく、1人の人間にとって、最ものぞき込まれたくない、究極のプライバシーと言えるものだろう。」(84)
これは地の文なので、記者の言葉か小泉さんが語った言葉かわからない。

2.2.『朝日新聞』2005年7月
朝日新聞』で検索したところ、小泉さん自身(署名)の文章でも使われていた。
小泉英明(2005.07)「脳科学の進歩 「心を見る」者、自ら倫理問う」(かがく批評室)『朝日新聞』2005年7月11日(夕刊): 7.
「一方で、脳科学自体にも差し迫った倫理問題が生じてきた。脳は究極のプライバシーを宿すからである。」

2.3.『日本経済新聞』2006年5月
以下はネットで検索。
竹下敦宣「??」(Sunday Nikkei α)『日本経済新聞』2006年5月28日: x.
「究極のプライバシーである脳を無断で解読するのは倫理的に極めて問題があり、倫理面の議論が必要だ」
http://q.hatena.ne.jp/1148512298 はてな【思想探知機】  2006年5月31日のitarumurayamaさんの投稿。
「"脳は人間の性格や感情をつかさどる究極のプライバシー。もし他人に勝手に中をのぞかれたら、大きな問題になる。」
http://sky-traveler.at.webry.info/200606/article_6.html
ブログ「SoManyThings 時空の彷徨い人の覚書き」


3.その他研究者

3.1.松田純さん 2006年7月10日からつ塾
アンチエイジングとサイボーグ化」という講演のなかで。
http://blogs.yahoo.co.jp/karatsujuku/7054025.html ブログ「からつ塾」
「脳を覗く−究極のプライバシー問題」「究極の個人情報とも言える思考を読み取ったり・・・」

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付録 遺伝情報と脳情報との相違点と類似点

遺伝情報と脳情報との相違点
・ 可塑性
・ 将来の体質の予測可能性
・ 周りの環境による変化

遺伝情報と脳情報の類似点
・ 一部の人が解読できる
・ 家族にも関係する
・ 普段の生活からはわからない(部分が大きい)