Lissa Roberts (2001) メモ

ナチュラルヒストリーの歴史研究会 61



Lissa Roberts (2001) "A World of Wonders, A World of One",
in P. Smith and P. Findlen, eds., Merchants and Marvels: Commerce, Science, and Art in Early Modern Europe.

UCLA Ph.D.ディドロ、オランダ・蒸気機関の文化史、知の流通の媒介者。〕
〔初期近代ヨーロッパの芸術と科学にみられる統一性と固有性との異なる志向が、市場によって媒介されるはず。〕


 コペルニクスは統一性・対称性という美的欲望から太陽中心説を唱えた。
 というように、「科学革命」の多くの解釈の出発点は美的次元である。ここではコペルニクスの文章にみられる論点群を紹介し、この論集との共鳴を見出す。これによって、初期近代ヨーロッパの芸術と科学の歴史に存在する緊張を明らかにする。その緊張には、数理科学/記述・実験科学、統一性の美的原理/多様性・固有性の美的原理という2つの関連するレベルがある。統一性の原理と多様性の原理との緊張は当時から認識され議論されていた。その解決に究極的に役立ったのは、優勢になる市場活動が物や考えを生み出していくなかで、哲学的にも日常的にも活動に注目することであった。


The Essential Tension? 本質的緊張?

 調和的で統一的な全体としての自然という理念は、世界の新たな表現を涵養だけでなく、芸術家や建築家に遠近法の原理を適用させた。
 統一性と秩序という標語のもとに建築の設計や宇宙の記述に人体が参照された。
 その視点でその後の統一的な自然哲学が展開したと語られる。
 一方Hauser(1951)によると、経済が人間の事業の幅と合理化の過程との統一性をもたらした。
 いずれにしても統一性・秩序の美的原理に特権を与える。この論集では、さらに別の「表現の歴史」と「介入の歴史」が示唆されている(Hacking 1983)。自然と人為とに見られるのは、固有性と驚異である。多様性に注目すると芸術と科学の連続が描かれる。


Science: A Matrix of Marvels 科学:驚異の母型

 18世紀初頭には「美は真」も受け入れられていた。多様性と固有性の美的原理による知の構築と増加には個々の現象の蓄積が必要になる。これと関連して、同定・生産・流通(次節)と、蓄積・分類・表現・利用について議論できる。
 もっとも明らかな集積の場は、庭園と陳列室であり、多様な人々が持ち寄った。そこは時間と空間の制約から逃れる芸術と科学の交錯となった。
 ルネサンス期から庭園は、自然と人工物が結びついた「第三の自然」であり、新たな多様性がつくられ薬用植物が育てられた。陳列室は、理解・消費・操作の作業場でもあった。
 自然の表現は、比較と分類という博物学的な方式を適用することによって、自然現象の描写を標準化する手助けをした。また移動可能になり人々が自分なりに触れられるようになった。


Beyond the Great Divide: Toward a History of Doing 大いなる相違を超えて:行為の歴史へ

 数理科学/自然誌・錬金術・医療という対立。
 伝統的には「実験科学」や北(欧)の芸術を無視してきた。Kuhnはベーコン主義を商業的関心と結びつけ、Hauserは北の芸術は平凡だとしていた。
 Alpers(1983)はこの二分法を採用しつつも、17世紀オランダの芸術の記述性を擁護する。Alpersは実験と記述を肯定的に解釈し、職人連合としてのオランダ絵画とベーコン主義との並行性を主張する。ベーコン的世界は個別の観察の対象である。
 活動と考えの連鎖には支配的な説明は存在しない。また、功績の歴史を行為の歴史に置き換えることが提案される。
 Meijerは境界を超えて活躍していた。当時も技術者engineerは数学的能力と実験・事業的技能と結びつけていた。
 Mukerjiの論文では、専門的な知と技能のネットワークによって構成される知識、すなわち調整された流通が注目されている。活動やそれを成立させるネットワークに注目することは、考えや組織の制約から自由にする。
 これはCiceroのいう「第二の自然」(人間の利用のために改変された景観)に対してのみ適用できると言われるかもしれない。しかしSandmanが議論した地図も同じように見ることができる。
 しかし「行為の歴史」を検証するには、数学的な物理学や天文学と実験的操作とを同じように説明する必要があるし、数学的表現が社会的知的過程から生まれ、知識と力のネットワークのもと自然を改変したことを示す必要がある。
 

The Market as Mediator Between Unity and the Unique 統一性と固有性との媒介者としての市場

 Goldgar「稀少なものが美しく、美しいものは有益である」。庭園や驚異の部屋は知的資本の倉庫であり、帝国は「発見」や全球支配を可能・妥当にした。しかし技術も重要で、開発・「改良」・応用された。
 技術の究極目標は消費であり、消費がさらなる生産を促した。
 多様性とともに標準化の高まりも見られる。
 神は全知か全能か、神を知るのは統一性からか驚異からか。
 両方を説明する方法を見出すことが目標だったが、18世紀以降は神の必要性が疑問視されるようになった。市場が牽引し哲学は後追いする。